
私立探偵ブルーのところに来た、
「ブラックを必要がなくなるまで尾行してほしい。」という依頼からこの物語は始まる。
一見単調でつまらない生活を送っているブラックを尾行することは単純な作業に思えたが、
数ヶ月、数年尾行を続けても依頼主からは決まった金額が送られてくる以外は何の音沙汰もない。
長い尾行生活を続けるうちに、ブルーはだんだんブラックと考え方や行動パターンを同化させることができるまでになる。
ある時ブルーは、そんな全く変化のない状況を変えるべく変装してブラックに接触を試みる。
ところがブラックも
「自分は探偵をしていて、今ある男を数年にわたって尾行している。」
と打ち明ける。
この物語のなかで印象深かったのは、
何日もずっとブラックの行動を監視しているうちに、
ブルーとブラックが同化していくシーン。
そのうちにブルーは、
ブラックから離れて映画舘に行ったり野球を見たりするのだが、
そういう時は、ブラックを監視していなくても彼の行動がわかるくらいにまで同化している。
ブルーが仕事に打ち込めば打ち込むほど、ブラックの中に入り込めば入り込むほど、
ブルーは自由になる。
逆にブラックから離れていけば離れていくほど、見失わないように時間とエネルギーを注がないといけない。
つまりそれだけ不自由になる。
そういうパラドックスがこの物語にはある。
読んでいるうちに、自分と他人や現実と妄想の間の境界線がわからなくなっていく。
ストーリーはじわじわと進んでいくが、確実に深みに向かっているのがわかる作品。
次回予告
『異邦人』カミュ
0 件のコメント:
コメントを投稿