2009/06/30

『国境の南、太陽の西』 村上春樹



 これは村上作品の中で、僕が一番最初に読んだ本。
その後もいろんな村上春樹の本を読んだけど個人的には、
この物語の主人公が一人っ子であり、
僕自身が一人っ子であるだけに最も感情移入できた。

主人公、始は足に障害を持っている幼なじみの女性、
島本さんと、転校によって離れてしまう。
その後何人かと付き合い結婚もするが、
それでも街で、足を引きずりながら歩く女性を見ると目で追ってしまう。
島本さんを欠いた人生は、順調にもかかわらず充たされていない。

あるとき、バーを経営している主人公が雑誌に載ったあと、
その女性が店に現れる。


この人の小説の主人公に共通していえることだが、
何と言うか危機回避能力とでもいうべきものが備わっていると思う。
人生における多くの選択肢のうちの、
少ない正解を選ぶことができるというか。
そしてその能力は、
普段の生活をきちんとすることから得られると言っているようにも思える。
例えば、毎日きちんと料理をするだとか、
服にきちんとアイロンをかけるだとか。
ちゃんとしていれば、きな臭い物事に対する嗅覚のようなものが
自然と研ぎ澄まされるようになる、とこの人の小説を読んでいると思える。

アンケート
『国境の南、太陽の西』を読んで
村上春樹は好きだけどこの本は読んだことなかった。
村上春樹は好きだけどこの記事には興味がそそられなかった
すでに読んだことがある
そもそも村上春樹が嫌い

2009/06/12

“The Long Goodbye” レイモンドチャンドラー 村上春樹〔訳〕



 そうです、村上春樹訳の方です。
普段あんまり推理小説読まないんですが、
読んでみるとハマりました。
読んでいて思ったのが、
全く無駄がないってこと。
余計な説明や会話をすべて削ぎ落としたらこんな感じになった、とでもいうか。
でも話の質はものすごい高いところでキープしている。

ストーリーは、村上春樹も訳者あとがきで述べているように、
スコット・フィッツジェラルドの『グレートギャッツビー』を髣髴とさせる内容。
恋人同士の再会と、失われた過去。
過去にあれほど燃え上がった二人も、
何かが損なわれた今は戻ることもせずに
過去の思い出に生きていくしかない。

意識してかせずかは定かではないけど、
チャンドラーなりのリメイク版とでもいいましょうか。
一読の価値アリです。

アンケート
記事“The Long Goodbye”を読んで…
読んでみたい
興味は出た
あんまり興味ない
今読んでいる
アンチ村上春樹

2009/05/18

『ホテル・ニューハンプシャー上下』 ジョン・アーヴィング


 やっと読み終わりました。
結構長い本で途中くじけそうになったけど、読みきってよかったって言える本です。

父親の突然の思いつきからホテル開業し生活していく、
主人公でありベリー家の次男であるジョン。
ホモの兄フランクに小人症の妹リリー、
レイプされた姉フラニーに難聴の弟エッグ。
ここに出てくる子供たちはそれぞれ心に傷を負っている。
それぞれが別々の痛みを持っているからわかりあうことは出来ない。
ために自分ひとりで乗り切ろうとしている。
そして互いがわからないなりにも助け合おうとしている。
この押し付けがましくなさが好き。
伝わるかな。

僕の好きなシーンで、
大晦日に毎年パーティをするが、
祖父が死んだために今年は中止するかどうか相談しているシーンがある。

「わたしはパーティが好きよ」
リリーが言ったので、みんな彼女のほうを見た…
…そこでぼくたちはみんな大晦日のパーティのために一致団結した。
リリーがパーティを楽しみにしている以上、
ぼくたちはその気分を盛り上げるように努力するつもりだった。

また一冊、将来読み返したい本が増えた。

アンケートにご協力ください
『ホテルニューハンプシャー』の記事を見て
読んでみたい
機会があれば
DVDなら観てみようかな
興味はない
この話を読んだこと(観たこと)あるかも

2009/04/11

『車輪の下』 ヘルマン・ヘッセ



 ヘッセの小説の中で最も有名なもの、らしい。
ちなみに僕は、大学のゼミで取り上げられるまでヘッセ自体を知らなかった。


あらすじ
幼いころから学業優秀でエリートになることを期待されていたハンス。
周りから期待されて、それに応えることが嬉しかった。
しかしそのために、
幼いころに好きだった釣りや自然の中を散策することを
放棄することもいとわなかった。

しかし次第に大きくなっていく周りの期待に応えることがだんだん負担になってゆき、
最後には内面から壊れていく。


今から100年も前に書かれたとは思えないようなテーマ。
今していることが自分のやりたいことかそうでないことか、
時々わからなくなる。
そんなときに周りが望んでいることが
自分のしたいことだと錯覚することがある。
案外自分のことってわからないから、
そこで行動と気持ちの間に差異が発生する。
そうやって気づかない間に溜まっていく、
人格を内面から破壊するほどのストレス。

ヘッセ自身の経験を基に書かれた話で、
鬼気迫るものがある。
そこには救いはなく、悲しい結末になっている。

アンケート
『車輪の下』を
読んでみたい
つまらなそう
自分と境遇が似ている

2009/04/06

小説「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」



前回紹介した映画の小説版です。
映画を見られた方もいると思うけど、
正直僕は映画のほうが好きです。
というのも、この本は短編集で、
「ベンジャミン~」の原作自体も結構短いものなんです。
なんで、ベンジャミンの人生がかなりざっくりとでしか描かれていない。
映画のほうが状況描写とかも細かく表現されていて、
人生を逆行するベンジャミンに感情移入しやすいんです。

ただ、これは「ベンジャミン~」に関してのみ言えることです。
短編集なんで、
他のストーリーは一見の価値あると思います。
恋愛から推理まで様々な物語が載っていますが、
特におすすめは「最後の美女」と「異邦人」。
前者は、戦争や友情からすれ違う男女の恋の話。
ありがちなストーリーだけど、男女の恋の行き違いについて書かせると
この人の右に出る人はいないと思ってます。(グレートギャッツビーしかり)

後者は、ひょんなことから大金を手に入れて隠遁生活に入った
若夫婦が精神的に堕ちていく話。
スコットフィッツジェラルド自身がモデルになっていると思われるが、
ラストのシーンで、若夫婦が精神的に堕落した自分たちを客観視して
いかに醜いかを悟るところは読んでいてぞっとした。

スコットフィッツジェラルドの作品はまだ訳されていないものが多いらしい。
この映画や、村上春樹のおかげでファンも増えていると思うし、
これからもどんどん訳していってほしいものです。

アンケート
「ベンジャミンバトン 数奇な人生」を
読んでみたくなった
興味は出た
あんまり
興味ない

2009/03/12

映画『ベンジャミンバトン 数奇な人生』


 はい、観てきました。
先日の休みに本屋に行ったところ、
本屋でこの映画の特集が組まれていた。
以前から観たいと思っていたのだが、
そこで原作者がスコット・フィッツジェラルドであるということを知って
後押しされるようにすぐその足で映画館へ。

80歳の姿で生まれ、
年をとると共にどんどん若返っていくという
数奇な人生を歩む主人公ベンジャミンのお話。

こういった奇抜な設定では
ともすれば中身がスカスカになりがちだけど、
この映画は全然そんなことはなかった。

最初のイントロダクションの部分でまず一気に引き込まれた。
第一次世界大戦後、
南部一の、盲目の時計職人がニューオリンズに出来る駅に
大きな時計台を建てるのだが、
いざ落成式の日に動かしてみると、
針は逆回転し始める。
そこには時計職人のある意図が含まれていた。

それからシーンが変わって
ベンジャミンが生まれるのだが、
醜い姿で生まれた為、親に捨てられ、
老人ホームで拾われて育てられることになる。
幼いころから、周りで自分と同じように年老いた姿の人間が次々と亡くなっていくのを
経験してきたベンジャミンの心境は推して知るべく物がある。

他にも、恋人の年齢と自分の体の年齢が同じになる時など、
いくつか人生の転機となるところが描かれているが、
フィッツジェラルドのすごいところは、
その心理描写が鋭いところだと思う。

ぜひ一度は見て損はない映画だと思います。
あ、小説のほうも買ったので、読んだらまた感想書くつもりです。

アンケート
映画館に行ってみようかな
DVD借りて見ようかな
まあ興味は持ったよ
興味ない

2009/03/06

『ひとりでは生きられないのも芸のうち』内田樹


 世の中の様々なことを、斬新な切り口で分析している。
例えば父親に育てられた子どもと
母親に育てられた子どもの違いについて。

父親は、群れの中で一番を目指す教育を施す。
一方母親の子育ては、群れの中でなるべく目立たない、
いわゆる「ふつう」になることを目的としている。

その理由は、父親は今いる社会が根底から覆されること、
例えばシマウマの群れの中に突然ライオンが現れるような状況、
を念頭においていない。
だからその囲いの中で少しでも上を目指そうとする。
反対に母親は、秩序が崩れることを常に念頭においている。
(意識しているいないにかかわらず)
というのは、どんな状況においても種を生き残らせるためである。
そのため、個性の「悪目立ち」しない「ふつう」を目指すのである。

他にも、少子化、働くということ、共同体の作法等について
興味深い視点で書かれている。
内田さんの著書に共通している隠されたテーマというものがあるとすれば、
「欲しいものは与えることでしか手に入らない」
ということである。
文章を読むとある程度その人となりがわかるが、
この本を読んで、
とても優しい受けとめ方をしそうな人だという印象を持ったのは
やはりそういう空気がこの本の中に含まれているからだと思う。

ついでなんで内田樹さんのブログも紹介しときます↓
内田樹の研究室


アンケート
『ひとりでは生きられないのも芸のうち』を読んで、
ぜひ本書を読んでみたい
興味は持った
面白くなさそう
すでに読んだことがある